ネクスエンタテインメント・佐藤博久さんプロカツ
- 佐藤さんから見たゲーム業界という世界
ネクスエンタテインメント・佐藤博久さんプロフィール
佐藤さんから見たゲーム業界という世界
中谷:今日はよろしくお願いします!
佐藤:えぇ、こちらこそよろしくお願いします。
中谷:ネクスエンタテインメントはゲーム開発会社ですが、 佐藤さんは社内でどんな仕事をしているんですか?
佐藤:私は、組織上副社長なんですけど、多分一般的に皆さんがイメージするところで、会長の立場に近いですね。
この会社は、ちょうど7年前にマネージメントバイアウトで買った会社なんです。ですから、社長をはじめ経営陣がいて、その経営陣と一緒に資金を集めてこの会社を買ったので、その経営陣に対して私の方からアドバイスする立場ですね。
あるいは株主でもあるので、経営を株主という立場から見たり、
ちょっと特殊な立場です。
ですので、現場にはほとんど立ち入っていないので、一般的には
アドバイザーという立場だと思って頂くのがいいと思いますね。
中谷:このネクスエンタテインメントには、どんな社員の方が多いんですか?
佐藤:私はずっとエンタテインメントの仕事で、最初はオモチャ屋なんですよ。
オモチャ屋って、本当に世界で一番良いオモチャを作りたいって人が
沢山入ってくるんです。
女の人だったら「リカちゃんで着せ替え遊びしました」とか、男の人だったら
「チョロQで遊んだことあります」とかの経験に基づいて、一人一人がハッキリとやりたい事があって入ってくる人が多いんですよ。
そういう点でいくと、会社としては働いてもらい易い環境が作りやすいですね。
ゲーム会社はもっと純粋に「世界で一番良いゲームが作りたい」って思っている
人ばかりが集まっているんです。
その部分の良さと、逆に経営からみると難しさがありますね。
良さは、みんないいゲームを作りたいと思っているので、
それこそ3日徹夜でもやるんです。それは好きな仕事をやっているので。
悪く言うと、良い物を作りたいので、経営サイドで言うとコスト、
ところが現場は予算はいくらで作るのかとか、いつまでに作るのかとか、
そういう点を度外視しても良い物を作りたい訳です。
一般的には経営と言う視点では、コスト、スケジュール、クオリティーを
バランスさせないといけないんですけど。良いゲームを作りたい人からすると、
時間もお金も関係無く、とにかく世界最高のゲームを作りたいので、
これをバランスとるのは経営からすると難しいですね。
ですから、ゲーム会社はお給料が良いからって入ってくる人は一人もいないと
思います。
中谷:みんな夢を持った、同じ志を持った人が集まっているんですか?
佐藤:それもあるし、逆に言うとそれぞれ皆やりたい事が実は微妙に違ったりします。
例えば我々の会社がゲームソフトを作っていると言っても、
それはセガさんなどから、ゲームソフトの受託をして作っているんです。
ですから、クライアントさんがいて、セガさんが「こういうゲームが作りたい」
という物を、我々は実現化しているわけです。
その中でも、セガさんの言った言葉の聞き取り方も、ゴールイメージも
それぞれ皆違うので、それを調整するのは結構大変ですね。
ですから良い物を作るという事と、セガさんが「この日に発売しようと思って
TV宣伝の準備をしてます」というスケジュールに合わせるという事は、
必ずしも一致するとは限りませんからね。
それは多分セガさんの現場も同じなんで。セガさんの経営陣が
「この日に発売したい」と思っている事と、現場はもっと良いゲームにしたいって
いうのは、全く同じなんで。そういう点でいくと、ゲーム会社が世界に冠たる
素晴らしいゲームを作れるっていう現場と、その現場をスケジュールに合わせて、
コストをコントロールしながらやっていくマネージメントサイドと両方は
難しい関係です。良い難しさだと思いますけどね。
中谷:ネクスエンタテインメントの社員の方は、1日どんなスケジュールを 送っているんですか?
佐藤:ゲーム制作の作業は完全に分業化されているんですよ。
CGならCGで、極端に言えば、あるキャラクターの腕の曲がりだけを、
それこそ3日間かけてデータ化するという作業もあれば、
格闘シーンの1つの音だけを4人で色んな素材を集めて作り上げるという
作業もあります。
ですから、1日っていう単位だと、何も見えないと思いますね。
大体うちが預かるタイトルで言えば、大きいタイトルだと150名くらいが
1年半位やるわけなので。これをマネージメントするのは大変ですね。
当然、意見の相違もあれば喧嘩もあります。かと言って、A君が辞めたから
すぐ代わりのB君が仕事出来る訳じゃないんです、ずっと積み上げてきているノウハウがありますからね。ですから、契約からすると、その期間それだけの人数を
マネージメントするのは大変です。
中谷:1つのプロジェクトにかかった時間で、最長の物はどれくらいですか?
佐藤:1999年に制作した、セガのドリームキャストのメインタイトルは、
遅れに遅れたので…。
これがどれくらい遅れたかというと問題があるんですけど(笑)
基本的に考えて1年というのはほとんど無いです。
やっぱり2年前後、それもある程度形があってから2年前後ですから、
その前の構想期間とかを入れると、もっと遥かに長い物になりますね。
例で言うと、「F-1のレースのシーンを作りましょう」となれば、
わざわざ皆モナコまで行って、草木まで撮影して、それを再現しようと
なる訳ですよ。でもそれは2年前の画なので、本当にその通り再現したとしても、
発売される2年後もそうであるかっていうのは分からないわけですよ。
けど、それが彼らのこだわりだし、そういう中で良い物が出来ると
皆信じていますから。
ただ、そのこだわりが売価に反映されるかとなると、そうでもなく。
どんどん過剰品質に繋がってしまう部分はあります。良い物を提供していけば
いくほど、値段から見ると安いと思われなくなりますからね。
ですから、業界的に言えばFF(ファイナルファンタジー)とか
DQ(ドラゴンクエスト)は安過ぎちゃう訳ですよ。
安過ぎちゃうっていうのは、数多く売れるから安くても成立するんです。
ただ普通のゲームソフトはそんなに数が売れる訳じゃないので、
スクエアエニックスとかが出すような価格が妥当な価格だとお客さんが
思っちゃうと、他のタイトルが非常に高い物だと思えてしまう。
ゲームは作った価値に合わせて値段があるというよりも、 かかった投資と売れそうな販売本数の割り算の中で、価格を決めているので。
いいタイトルが安く見えるというのは良い事のですが、 逆に言うと、本当に良いタイトルでも、数が売れないタイトルは高く 見えちゃうっていう構造的な問題はありますね。