ネクスエンタテインメント・佐藤博久さんプロカツ
- 佐藤さんのキャリアとビジネス観。そして、学生への貴重なアドバイス
佐藤さんのキャリアとビジネス観。そして、学生への貴重なアドバイス
中谷:佐藤さんのお父さんは『タカラ』を創業した佐藤安太さんとの事ですが、 佐藤さん自身がこの業界を目指したキッカケはなんですか?
佐藤:元々、物を作るって好きだったんです。
ゼロから物を作るって素晴らしい事だと思うし、
大学受験の面接でも「尊敬する人は誰ですか?」と聞かれて、
「ウォルト・ディズニーです」って答えたんです。そんな事答える人は、
当時では珍しかったと思いますよ。35年以上も前ですから(笑)。
そんな所から始まっているので、やっぱり物を作るって楽しいって思っているし、
特に日本の作った物、例えばトランスフォーマーの日本導入は僕も深く関わりましたが、結果的に世界に通用するキャラクターになっていると思っています。
そういう点では、良い物を作って、結果それが世界で受ける。
特にその対象が子供達だったりするのは、私にとって喜びなんです。
その後のセガでもそうですし、ミュージック・ドット・ジェーピーでは、
「“着うた”というジャンルを作り上げてきた」って思っているので、
そういう点ではやっぱり物作りって楽しいと思いますね。
~話は佐藤さんのキャリアからビジネス観へと展開!~
佐藤:僕らの物作りって、例えば川に橋を架けるとかとはちょっと違っていて、 エンドユーザーに向けた物なので、お客様が買う時の姿が見られるんです。 百貨店で子供がお母さんにねだっている姿を見ると、「いい子だなぁ」って 思っちゃう訳ですね(笑)。大人って子供のことを分かっていると思っている つもりなんですけど、皆さんが見てる子供って生活者なんですよ。 でも、我々が相手にする子供は消費者なんですね。 子供がお金を払うという行動を分析できてないといけないんです。 子供にただ遊んでもらうだけの物っていくらでも出来るんですよ、 要するに子供がわざわざお金を払わないけど遊びたい物っていくらでも あるんですね。
ただ、子供にお金を払ってもらうビジネスとなると、子供がお金を払う、
あるいは子供が親からお金を払ってもらう状況を作り出さなければいけない。
難しいのは、子供を消費者として見るって事なんです。
例えば、リカちゃん人形は平均で3~4歳位の女の子がメインなんですね、
その子達がお正月にリカちゃんのショップに来ます。
で、それを見ていると、その子が買う物、買わない物ってはっきりしているんです。
今だったら4~5歳で、多い子だと5~6000円のお年玉を持ってくるんですよ。
それで、買える物でも、買う物買わない物ってはっきりわかっているんですよ。
すぐ買うのは、非常に分かり易く言うと、親とかお祖父ちゃんお祖母ちゃんに
ねだっても買ってもらえない物ばかりなんです。例えば、お菓子とか。
ねだって買ってもらえるノートとかは、そこで本人がお金を払わないんですよ。
1日我慢して次の日に、お祖父ちゃんお祖母ちゃんを連れてきて買ってもらう。
これは3~4歳で立派な消費者って事です。
多分それは、日本だけでしょうね。子供が買いに行ける距離にお店があるから。
アメリカとかだと、子供が歩いて行ける所にお店なんて無いわけです。
ですからアメリカでは子供の買い物は、親が一緒に車に乗せて行くので、
消費者としての子供が成立していないんですよ。
日本で言えば10年前の子供って感じですね。向こうは(笑)
中谷:子供達の心を掴むために心がけている事ってありますか?
佐藤:それはやっぱりリアリティ・実感ですね。
今、教えている大学などで言うのは、大学生の皆さんがこれから非常に大きい
チャンスがあると思うのは、皆さんじゃなきゃ持てないリアリティがある
カテゴリーがあるという事なんです。
例えば携帯、この中(※現場スタッフも合わせ4名)では普通に考えて中谷さんが
一番携帯を使うと思います。という事は、中谷さんは
そのビジネスにおいて一番リアリティがあるのでチャンスがあるんですよ。
一般的に4年生大学の、特に女性は就職が難しいと思います。
けど、我々からすれば、ちゃんと選べば良い所があると思うんです、
女性じゃなきゃ分からない感覚のビジネスはいくらでもあるので。
そこが分からないと、せっかく良いモノを持っていても、自分に合った仕事の
ある会社に行けず、結果的に自分にとって面白くない仕事になってしまうんです。
中谷:佐藤さんはどんな新入社員時代を過ごしていたんですか?
佐藤:最初は修行で、1年北海道に行って、戻ってきてからビジネススクールに
1年行って、それから『タカラ』に入りました。
我々はよく2世って言われるのですが、創業者の息子って大体同じ感覚で、
真っ直ぐ会社に入る事って、ほとんど無いんですよ。
皆、数年間どこかの会社を経験しているんです。
中谷:その修行の1年で得た物はありますか?
佐藤:その後、僕達は経営する側に回る事になるので、 逆を言えば、他の多くの社員の人は普通の社員なわけで、 “普通の社員はどういう風に考えているのか”と考える時には、 かなり役に立ったと思っています。 私が最初に『タカラ』に入って、最初の仕事がマーケッターだった時代は、 ヒット商品を作るのが楽しみでした。 そして、その次に事業部長になると、今度は利益を出すのが楽しみになるんです。そして、最後は経営者になると、やっぱり人を育てるのが楽しみになりました。 ただ、日本の経営者っていうのは、人の育て方とか、社員に対する話し方が 上手くないように思います。基本的に日本人は真面目だし勤勉なので、 ちょっと上手く話すだけで、良く働いてくれるんです。
私はよく「社長はいいですね、そんな風に朝から新聞読んで」って言われたら、
「何言ってんだ、私が朝から新聞読んでるようだから、君たちも私みたいに
なりたいと思うだろ?これが、君たちより2倍給料もらってるからって、
3倍仕事していたら、なりたくないだろ?」って言うと、
「それはそうですね」って(笑)
「通常の仕事は君達の仕事、問題があったら私に言いなさい、
それがマネージメントの仕事なんだから、夜でも朝でも呼びなさい」と。
そういう中で、出世した人間が部下に仕事を任せればいい。
悪く言えば“ラクをしたい”それでいいと思うんです。
中谷:企業の上の人の考え方が分かって勉強になりました。
佐藤:みんな“べき論”で考えすぎなんですよ。「こうするべきだ」、「ああするべきだ」と。
それは誰も反対しないんですけど、やっぱり続かないんです。
例えば、新入社員に売り上げに関して「目標は100%達成するべきか?」
と聞くと全員「はい」と答えます。“べき論”が通用するなら毎月
みんな達成しますよ。でも、通用しないし、続かない。
だから私はみんなに言うんですけど、自分が得することしか続かないんで、
「何が得するかを考えなさい」と。自分が得すると思わないことって続かない。
例えば、9時の始業時間に遅刻する人もいます。
そういう人って間に合わなくても「この方が得している」と勘違い・錯覚して
自分の都合いいほうに流れちゃうんです。
でも、私からすると「時間通りに来るほうが得だよ」って言ってあげる。
そうするとだいたい来るようになる。
「そんなつまらないことで評価下げるのってバカバカしいでしょ」って。
それでも遅刻するのは自由。会社は構わない。給料が下がるだけですよ。
本当は会社の構造ってこういうレベルの話をしなくちゃいけないんです。
学生の皆さんって何で働くか考えてきてないし、会社の評価の仕組みを
分かっていない。仕組みを知らないで入社している人が多いんですよ。
アパレルなんて典型ですよ。
自分の好きなブランドの会社に入る人がいますよね。
企画志望でも、そんなことはやらせてくれない。最初は販売の契約社員で
入りますよね。最初はいいけど、給料の3分の1とかは自分の会社のブランドの
服を買わなきゃいけなくなる。結果、「これじゃあ、やっていけなくなる」と
会社を辞めちゃうわけですよ。だったら最初から調べないと。
今の大学生は4年間もあるんだから、その辺を調べるべきですよ。
~話はさらに深くなり、佐藤さんから大学生へ警鐘を鳴らします~
佐藤:多分、これからは専門学校の時代になりますよ。
例えば、僕らが秘書を採用するとします。普通、秘書って言ったら、いい大学を
出た身元のしっかりしたお嬢さんを企業に入れてから、秘書検定をとらせる訳です。
で、この前、専門学校を出た子を秘書として採用したんですよ。
そしたら非常に良く出来たんですよ。
その理由を知りたくて、その子の出た学校を見に行ったんですよ。
そしたら、広い教室の前にはステージがあって、そこにはボスの机、応接セット、
秘書の机、冷蔵庫、全部あるんですよ。それにカメラ3台。この授業を
2年間やったら、いい秘書になるでしょ。
大学卒業する人よりも2歳若いから
給料安いし。だから4年生の子は4年間で何かをしないと、もったいない。
中谷:今、エントリーシートとか面接とかの対策本がいっぱい出ていて、 よく「参考にしてもいいけど、マネするな」って言われるんですけど、 結局、型にハマちゃいます。どうすれば自分らしいスタンスを保てるのでしょうか?
佐藤:まずは自分自身を知ること。
よく「本当の私は…」って言う人いるでしょ。そんなの関係ない。
人からどう見られているかが大事なんです。
私は『タカラ』の社長時代、そうだったんですけど、自分が着るスーツを自分で
選ばないですよ。ウチの社員を呼んできて、「あなたが自分の会社の社長に
着てもらいたいスーツを選んでください」と言います。
私がどんなスーツを着たいかは関係ない。
社員が自分の社長にどんな服を着てもらいたいかが大切で、
そのスーツを着るのが私の仕事なんです。
つまり、学生に言い換えると、「本当の私は…」とかは関係なくて、
「私って求める企業から見たらどう見えるのかしら?」が大切なんです。
分からなかったら人に聞けばいい。ただ、そこで本当の言ってくれる人は少ない。
だって、言いたいこと言うのって普通メリットがないから。
男性だと、ズボンのチャックが開いていたとして、どれくらいの人が
「開いてますよ」って注意してくれるかってことですよ、あんまりいない。
もし、周りに本当のことを言ってくれる人がいれば、その人に聞いて
人から見える自分を聞いて、その自分が就職活動の時の自分なんですよ。