堀彩子さんからの"現場の声"
- 仕事のやりがいは"最初の読者"になれるという喜び
仕事のやりがいは"最初の読者"になれるという喜び
橋口:堀さんが出版業界を目指したキッカケは何ですか?
堀:本はずっと好きだったんですよね、小説が好きで。
大学も一応、英米文学専攻みたいな感じでやっていたので、「小説に関わる仕事が
したい」ってずっと思っていたんですね。厳密に言うと大学の時は翻訳の小説が
好きで、翻訳小説とかを出してみたいって思っていたんですけど。
そんな感じで、小説の出版をやっている会社を中心に、それだけだと少し狭いので
やや広げた形で就活はしたんですけど。やっぱり小説が好きだったというのと、
作ったものが見えるという仕事がしたかったんですよね。
単純に自分の性格というか嗜好のもんだいなんですけど、
金融業みたいにあまり物質で見えない仕事というのが、ちょっと自分の中で
しっくりこない所があって、目に見える物を作る仕事がしたいなぁと思いましたね。
橋口:堀さんはどんな新入社員時代を過ごされていたんですか?
堀:最初は『BE・LOVE』っていう漫画の雑誌に配属になって、漫画の編集部に
いたんですね。
『BE・LOVE』っていう雑誌は、少女漫画から読者の年齢が
上がって来て、一番上の方を対象としていて、主婦向けの漫画雑誌だったんですね。
漫画家さんもベテランの方が多くて、大和和紀さんとか、庄司陽子さんとか、
いわゆる少女漫画界の大御所みたいな作家の方が多いっていう編集部だったので、
そこに新入社員で入って、皆さんに良くして頂いた記憶がありますね。
本当に良い方達ばっかりで、あんまり辛い目に合う事もなくですね。
多分上の人から見てると、結構、生意気でやりたい放題していたんじゃないかな
と思うんですけど(笑)
橋口:会社に入って、最初にどんな仕事をしていたんですか?
堀:雑誌の部署だったので、最初はバックナンバーをドンと積まれて、
2~3年分をひたすら読んでいましたね。
作品を知らないという事は、作家の方にも非常に失礼な事なので、
とにかく読むというのを最初はずっとやりましたね。
それは文芸の部署でも一緒なんですけど、作家の方と関わる仕事をする時は、
配属になったらひたすら読むという事ですね。
あと、具体的な事を言えば、漫画雑誌は予告ページがあるので、次の号に何が
載るのかっていうのを作るんです。
読者の人はほとんど気にしていないさりげないページなんですけど、
そこにコピーを付けなきゃいけないんですね。
次の号のキャッチコピーみたいなのを
付けつつ、あとは、一つ一つの掲載されるストーリーのイラストを発注したり、
そこにそれぞれのコピーを付けなきゃいけないとかあるので。
そこでキャッチコピーの基本だとか、デザインの基本やデザイナーさんとの仕事の
やり方の基本とかは最初の仕事で学びましたね。
あとは普通に掃除とかしてましたね、9時半に会社に行って(笑)
橋口:その時代に大きな失敗とかはありましたか?
堀:私、あまり早く仕事ができなくて(笑)
予告を作ったりするのも、締め切りギリギリになってしまうことが多くて・・・
今だとデジタルを使って画面でデザインをしていて、間違ってもパソコンで
パッと直せばいいんですけど、当時は写植っていう紙で貼るようになっていて、
写植屋さんという所に頼んで作っていたんですが、それが何かの拍子で
1文字無くなってしまって、夜中に大騒ぎになったことがありましたね。
写植屋さんはもう閉まっているし、明日までは待てないしで。
でも、本当にいい人ばかりだったんで、『BE・LOVE』時代はスルスルっと
きたんですよね。わりと文芸の部署に来てから一杯怒られたんですけど(笑)
橋口:文芸時代はどんな失敗を?
堀:分かり難い話かもしれないんですけど、漫画家さんってそんなに沢山の編集者と
仕事をしていない場合が多いんですよ。“この雑誌だけで描いてる人”っていうのも
珍しくないんですね。
それは、漫画って物理的に大量に描けないからなんですけど、
作画に時間が掛かるので。だから担当者が自分だけっていう人も珍しくないんです。
小説家の方ってそうじゃないので、凄く沢山の編集者とか出版社と仕事を
されているんですよ。なので、なかなかお一人お一人の作家の方と親しくなるのも
大変ですし、向こうは「あ、担当変わったな」位の感じで、
すぐに名前も忘れちゃったりという所から、どうしても始まるので(笑)。
そうすると一人一人の方が、どういう時間帯に起きてて、寝てて、
どういう事が好きで、嫌いでとかが、漫画家さんとやってる時は、
凄くお互い分かり合っていたことが、いきなり文芸に来ると本当に
分からなくなってしまって、それでトンチンカンな電話を掛けては
怒鳴られるという事がよくありましたね(笑)
あとは、「ちょっと(作家さんから)80字のコメントを取って来て」と
上から頼まれて、それで、何気なく「80字のコメントお願いします」っていう風に
お願いをしたんですよ。そしたらその時、非常にお忙しかったみたいで…。
コメントを80字にまとめるという作業が、実はとても大変なんだと分かった上での
頼み方があると思うんですけど、私はあんまりそこが分からずに簡単に
頼んでしまって、先方の先生も「自分も忙しいのに、その頼み方はおかしい!」
みたいな事になったりだとか。そういうのが大なり小なり・・・
沢山失敗していますよ(笑)
エッセイの依頼とかでも、雑誌で特集があったりして、
「この特集にこの人どうかな」とか思ったりしてお願いすると、
「そんな事には全く興味がありません!」とか(笑)
感覚を掴むまで、最初は躓く事が多かったですね。
橋口:出版業界で働く上での心構えはありますか?
堀:自分が、色んな事に興味を失うと厳しい仕事だと思うんですね、
それは出版に限らないと思うんですけど。常に何かを面白いと思ったり、
「これってなんなんだろう?」と思ったり、「これについてもっと知りたい」
と思ったりとか、「こういう小説・漫画が読んでみたい」でもいいんですけど。
そういう自分の中の好奇心だったり、欲求が枯れてしまうと、
この仕事をしていくのに辛い所があると思うんですよね。
だから常に何かを面白がれる姿勢でいられるといいと思うんですけどね。
橋口:編集者という仕事のやりがいは何ですか?
堀:沢山あるんですけどね(笑)。純粋にやっぱり形として本が出来た時も凄く
嬉しいですし、その前の段階で原稿を頂く時って、最初の読者になれるっていうのが
あって、作家の方の書いたものの最初の読み手になれるっていうのが、
何年やっていても贅沢な事で楽しいことだなと思いますね。
あとは、やっぱり商売でやってる以上、売れる事も大事なので、
売れた時っていうのが嬉しい時であり、やりがいがあったなと思える時ですね。
売れた本はハガキが沢山来るんですよ。それを沢山頂いたりすると、
「良かったなぁ」って単純に思います(笑)。