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川口克己さんインタビュープロカツ

  1. 飽く無きこだわり!ガンプラはファンタジー

飽く無きこだわり!ガンプラはファンタジー

輿石:現在携わっている新商品はありますか?

川口:(タッパーから新商品のガンプラを取りだし)7月24日がガンプラの誕生日とされているんですが、「RG」っていう新シリーズがスタートしました。東静岡の駅の側に、昨年お台場に立った実物大ガンダムを移して、イベントをやったんですが、それに合わせて作ったモデルというのがこれなんですね。

最新型ガンプラ「RGシリーズ」のガンダム

輿石:これがそのガンプラですね。

川口:新シリーズの第1弾ということで発表しました。今まで30年間ガンプラをずっと作ってきた技術を、とりあえず全部入れて作ったものという事で。細かいとこも全部色で分かれていて、中のフレームもしっかり可動するように作られていて。プラモデルなんですけども、どなたが作っても基本的にはうまく作れます。これが最新で、“一番すげー!ガンプラ”です。

輿石:一番すごいガンプラ!これが!

川口:かなり注目して頂いてますし、久し振りにガンプラを作ってみようかな…という方にも好評いただいています。

輿石:ガンプラを作る上で“こだわり”はあるんですか?

川口:プラモデルは誰だって組めるんですよ。世の中で10万人プラモデル作ったら10万人同じものできちゃうんですよ。でもそれって作品じゃないですよね。だったら完成品でいいじゃないかって話になる。

「完成品じゃなくってプラモデルだからできる事って何?」っていったら、ちょっと凝って、自分なりの解釈とイメージで作ってみるというのが模型なんじゃないかと思うんです。かなりマニアックな話になりますよ。

例えば、このガンダムを作る時に何を考えたかっていうと、アムロがホワイトベースから脱走しますよね。1人で砂漠の中ガンダムを持ち歩きますよね。あの時は多分こうだったんじゃないかっていう…ゴメンネ。マニアックな話で(笑)

輿石:なるほど(笑)

川口:18メートルのロボットを1人で持ち出すんですよ。メンテナンスする人いない訳です。それでアッザムに4000℃で焼かれる。宇宙でも戦えるので、UV対策はしてると思うんだけど…。4000℃で焼かれた機械なんて僕らは見た事ないんだけど、多分表面の塗装は剥げないまでもくすんでしまうんじゃないかと。で、傷がついても1人で直せる余裕はないし、砂漠で戦うから砂風なんかで細かい傷がたくさん付くんじゃないかっていうような事をプラモデルを作り始める前に考える訳です。

それで、そのためにはどういう仕上げをしていこうと考える。だからそういう傷だらけの機体というのもありなんじゃないかと。これは、00(ダブルオー)っていう作品に出てくるメカなんですけど、こちらは傷なんて全く無い新品同様なピカピカに仕上げてます。出来たてでスーパーロボットという感覚なら、傷だらけよりもピカピカの方が“らしい”よね、というように想像を働かせて作るのが僕らモデラーなんです。

左:砂漠戦で傷付いたガンダム / 右:00(ダブルオー)ガンダム

輿石:確かにこのガンダムは砂漠の中で戦ったって気がします(笑))

川口:作る時にそういう風に色を塗ったりとか、傷も全部付けてます。さっきのガンダムの話と一緒で、かなり細かい話になっちゃうんですけど、例えばこれ「ゲルググ」っていいますよね、ゲルググっていうロボットは、ガンダムから腕切られたり、お腹のところ切られたりとか、結構ボロボロになっちゃうんですよ。そうすると腕が無くなっちゃったらどうするかというと、他の腕を持ってきて付けるから、他のところとなんかちょっと違うんじゃないかと。

ガンダムとの激戦を終えた後のゲルググ

輿石:深いですね、それは~!腕の色ちょっと違いますよね(笑)

川口:だからどっちかというとファンタジーに近いんです(笑)

輿石:休日で家にいる時も、趣味としてプラモデルをやるんですか?

川口:結局、仕事が趣味になると公私の境が無くなるっていいますよね?もう典型的なそのパターンです。

輿石:家でも職場でもプラモデルなんですね(笑)

川口:ただね、もちろんガンダムのプラモデルも作るんですけど、他のプラモデルもいろいろ作るんですね。だから、ガンダムが好きとかガンプラが好きとかではなくて、模型そのものが好きなんです。ガンプラを仕事で作ることがあるんですけど、続けて作ったりすると「しばらくガンプラ作りたくないなぁ」っていう…。

するとね、例えば飛行機を作ってみたりとか、どんどん浮気していっちゃう。それでまたガンプラに戻ってきて…。だから、「川口さん、プラモデルで疲れたときは、プラモデルで癒しているんですね」ってよく笑われるんですけど(笑)

輿石:(笑)

川口:これだけっていう風に決めてやってると、多分どっかで限界が出ちゃうんですよ。だからそういう意味では、模型っていうもう一回り大きいところを、そういうグルグル回りながらやってるんで飽きないんですよ。元々は飽き症だと思うんですよ、自分は。

輿石:プラモデルの味を変えて飽きずに、みたいな感じなんですね。

川口:だから仕上げ方もやっぱり変わってくるんですよ。例えば、飛行機の模型はどうしたら良いのかなって、やっぱりいろんな情報を取りながら勉強する訳です。で、実際自分でやってみる。それって結局ガンプラに戻ってきた時に全部ノウハウとして生きていきますよ。

輿石:他のプラモデルを作ったら、「こっちについてもっと深くやりたいな」と思ったりしないですか?

川口:いや、しますよ。それぞれのところでこだわりながらやってますから。こういう風にやるのがデフォルトみたいな話って、結構いろんなところでいわれるんですよ。こういう作り方をしなければならないとかね。いわゆる“ハウトゥもの”という本でもそうだし、ネットの情報系サイトも結構多いんですけど、そういうのを運営されたりとか、出版されてらっしゃる方から見ると、僕はとっても邪道な人だと思うんです。

作りやすければ自分のやり易い方法でやっちゃうので。「こういう材料を揃えなければいけません!」ってハウトゥ本にあったりすると、「いや、俺はコレの方が便利」って(笑)、「スーパーやコンビニで売っているようなもの使って作ります!」とかね。

そういう意味ではね、どんな状況でも多分、プラモデルを自分が楽しんじゃうのかなぁと。だから、道具が無いと出来ないとか、技術が無いと出来ないとかって、プラモデルに対して難しいものっていう風に思ってらっしゃる方が多いんですけど…出来ちゃうんですよ。自分の出来る範囲で楽しむのが、プラモデルの面白いところじゃないかなと、僕は思ってるんです。

輿石:どんな学生がおもちゃメーカーに向いていると思いますか?

川口:自分はこれは人に負けないっていうものを持ってる方。スポーツでもなんでもいいですよ。そういう方はね、「とても強いんだろうな」って思います。

熱中する事がなんだかかっこ悪いっていわれた時代が一時期ありましたけど、熱中できるものを持っていない人は逆に可哀想かなと。でもそこにあんまり凝り固まっちゃうとそれは人のいう事を聞かない人になっちゃうので、それはかなり残念な事になっちゃうんですけど(笑)

自分ではここは絶対に譲れないっていうものを持っていても、それは本人の価値観じゃないですか。それを人に押し付けるんじゃなくて、「自分はこう、他の人は他の考え方があるよね」っていう事をちゃんと理解できる人。要は人のいう事をちゃんと聞ける人ですよ。そういう人が1番望ましいのかなと思いますね。とにかく、僕らもそうだったんですけど、マニアの人っていうのは自分の価値観が絶対なので、人のいう事を聞かないんですよ(笑)

輿石:川口さんもそうだったんですか(笑)

川口:そういう時期はありました(笑)そうすると結局独りよがりになっちゃうんですよね。だからいろんなものに興味を持ってもらって、その中で自分が楽しめるもの、自分が好きなものを見つけてほしいって思いますね。そうするとね、それが玩具に関係した事であれば、自分がいつかこういう事をやってみたいとか、こういう仕事に携わりたいって思えるんです。

輿石:今までこういうのは全然…、私からしたらもう未知の世界だったんです。例えば、友だちの家にいった時に、ガァーってフィギュアが並んでいるのを見て、今でいうオタクなのかなぁ…って思ってたんですけど、こういう話を聞いてると、その人達にはすごい将来の可能性があるんだなぁって思わされました。

川口:その辺はもうバランスですよね。だからそれで世の中と折り合いをつけていけない人はちょっとやっぱり、残念な人になっちゃうんだけど…。自分は大事なもの持ってるし、それで「世の中と折り合いをつけていけますよ」というバランスが取れている人はやっぱり、それなりに強い人じゃないのかなと思いますよね。

もちろん、入社してすぐに自分のやりたい事が出来る訳じゃないですから、運よくなれればそこのところでじゃあ頑張って何とかしようって思えますし、逆にそこに収まらなくてもいずれはそっちへという風に自分の中で常に意識してもらいたいと思います。自分の中で絶対にそっちの方にいくんだという、気持ちというか意志は持ち続けて欲しいですね。